やさしい仏事入門

戒名とは?祈りを込める“生きる名前”の意味

shoei
  • お葬式や法事のとき、耳にする「戒名(かいみょう)」
  • 「高そう」「形式的なだけ?」と、どこかモヤモヤする…
  • 自分の親や家族にも関わると思うと、なんだか身構えてしまう…

戒名とは、仏教の中で亡くなった方を“仏として供養する”ための名前。
けれどその本質は、残された私たちが「想い」を込めて手を合わせる、“心のよりどころ”でもあります。

実は、戒名とはインドや中国にはない、日本独自の“死者を仏として供養する”文化から生まれたものです。「供養は心」と言いつつも、なぜ名前が必要なのか?生前に授かる人もいるのはなぜか?

本記事では、仏教の歴史をもとに、戒名に込められた本来の意味をひも解きます。

この記事を読んで分かること
  • なぜ日本だけにある文化なのか?
  • 生前にもらう“逆修戒名”の意味とは?
  • お布施や費用の考え方とは?

あなたの「今」にとっての、やさしい学びになれば幸いです。

しょうえい
しょうえい
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お寺の住職を務めながら、「仏教の学び」や「生活の知恵」を日々の暮らしに活かすことをテーマに、ブログで発信をしています。 生活が豊かになるヒントや、見直すきっかけになれば嬉しいです。 コメントなどもお待ちしております。
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戒名とは何か?|“仏になる”という日本独自の供養のカタチ

戒名とは、亡くなった方を「仏弟子」として供養するために授けられる、日本仏教にしかない特別な名前です。

仏教の発祥地インドでは、供養の対象は神仏であって、人間(とくに死者)ではありませんでした。中国でも同様で、出家者が俗名を捨てて僧名を名乗ることはあっても、「亡くなった在家者に仏名を授ける」という習慣はありません。

ですが、日本に仏教が伝わるなかで、「亡くなった人を仏として供養したい」という心が根づきました。それが形となったのが戒名です。

つまり戒名は、「大切な人を仏として送り、敬い続ける」ための日本独自の信仰のあらわれなのです。

戒名は二文字だけを指す|意外と知らない戒名の構成

戒名は、基本的に漢字二文字の「仏弟子としての名前」で構成されています。
それに以下のような部分が加わることがあります。

  • 院号(いんごう):社会的功績や寺院への貢献などで付けられる敬称
  • 道号(どうごう):その人の人柄や人生観を象徴する言葉
  • 戒名(かいみょう):仏弟子としての正式な名前(漢字二字)
  • 位号(いごう):性別・年齢によって異なり、「信士」「大姉」「童子」など

戒名は単なる「死後の名前」ではなく、その人の人生を言葉に込めて伝える、尊厳ある祈りの形なのです。
残された私たちにとっても、戒名を通じて手を合わせることで、心のつながりが生まれていきます。

戒名がもたらす学びとつながり|“心の杖”として生きる名前

戒名は、亡くなった方だけでなく、残された私たちが「どう生きるか」を考える“生きる杖”にもなります。

戒名には、その人の生き様や価値観が言葉として凝縮されています。
それは、「こんなふうに生きた人だったんだな」と振り返ったり、「私もこうありたい」と学ぶヒントになったりします。

あるお坊さんは、戒名のことを「人生のキャッチコピー」と呼んでいました。
過去を整理し、未来への手紙のように言葉を編む。そんな意味も込められているのです。

たとえ何十年、何百年先であっても、戒名を見ればご先祖の存在を感じることができます。
「この人はきっと、やさしい人だったんだろうな」
そんな想像が、子や孫たちの中に“つながりの灯”として残っていきます。

戒名は、死を超えていのちのバトンを渡す“ことばの供養”なのです。

「高くて無理だから戒名はいらない」と思う前に、まずは菩提寺や信頼できる僧侶に相談してみてください。
たとえ形式にとらわれずとも、「手を合わせる心」さえあれば、供養は成立します。
戒名もまた、その“想いの延長線上”にあるのです。

生前に戒名をもらう「逆修戒名」

「生きているうちに戒名を授かる」という行いを「逆修(ぎゃくしゅう)戒名」と呼びます。“逆”といっても「反対」という意味ではなく、“あらかじめ”という意味。
つまり、本来は死後に授かる戒名を「前もって受ける」ことで、仏弟子として心の準備を整えるという行為です。

仏教では「死を見つめることは、生を深めること」とされてきました。
「一度死んだことにして、生まれ変わる」ような心持ちを持ち、寿命の延長や心身の息災を願う文化もありました。

じつは、あの武将も戒名を名乗っていた

歴史上では、武田信玄(徳栄軒信玄)や上杉謙信(不識庵謙信)などの武将も、生前に戒名を名乗りました。「いつ命を落とすかわからないからこそ、覚悟を決めて仏弟子として名乗る」─そうした信仰です。

現代でも、終活の一環として「生前戒名」を受ける方が増えています。
心の整理ができたり、家族と仏事について話し合うきっかけにもなったりします。

逆修戒名は「死に備える」だけでなく、「どう生きるかを見つめ直す」仏教的な実践です。
「いまをよりよく生きる」ことが、なによりの供養になります。

戒名の費用に決まりはあるの?|“お布施”の本当の意味とは

戒名には定価はなく、あくまでも「お布施」というご志納で成り立っています。

戒名にかかる費用が話題になることがありますが、これは「物を買う」のとはまったく意味が異なります。
お布施は、「供養の心」を表す手段であり、金額によって供養の価値が変わることはありません。

寺院によっては目安を示す場合もありますが、それは寺を維持するためのお願いであり、営利目的ではありません。
また、費用の相談があれば、柔軟に対応している寺院も多くあります。

戒名の価値は金額ではなく、その人を想い、祈る心にこそ宿るものです。

まとめ

戒名とは、亡くなった方を仏として敬い、祈りを込めて送り出すための“日本仏教ならではの名前”です。

けれどそれは、ただの形式的な「死後の名前」ではなく、その人の生き方を仏弟子として受けとめ、祈りと願いを込めて贈る象徴です。

生前に受け取る逆修戒名のように、
戒名は「死の準備」ではなく「生を見つめるため」としても、私たちに寄り添ってくれます。

価格の不安や形式への抵抗があったとしても、
その背景にある「想い」や「願い」に目を向ければ、
戒名はきっと、やさしい祈りとしてあなたの心に届いてくれるはずです。

疲れた日も、誰かを想うときも、
ふと手を合わせたくなるような─そんな“よりどころ”として、
戒名がご家族の心を支える存在になれば幸いです。

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しょうえい
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